万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 第十 いそ本。物能多とへを引遣る条々
02 徒ら/\人間能有様をあん春゛るに。色にめ天゛香に染遣類
03 こと越本として。能動を志ること奈し。され八゛此巻物を。一本能樹
04 尓八。必花実有。花八色香越あら八須物也。実八其誠をあら八
05 せ利。され八゛鶏尓。奈ぞらへ天。其こと越志るべし。鶏八。塵あく多
06 尓う川゛も連天。ゑじき越もとむる所尓。い登めで多起玉を。可
07 き出せ利鶏曽天是をもちひ春゛。ふ三の遣天己可゛ゑじき
08 をもとむる。其ごとくあやめ毛志らぬ人八多ゞ。鶏尓こと奈ら須゛。
09 玉能ごとく奈るよき道を八゛春こし毛もちひ春゛。あく多奈類
10 いろ耳そ三て。一生越くら春もの奈りとぞ見衣遣る
11 第十一 狼と。ひ徒じとの事
12 或川能辺尓。狼と羊と。水をのむこと有遣利。狼八上に有。
【伊曽保中 〇十六】
13 羊八川春そに有。狼羊を三て彼そ者゛にあゆ三近付。羊尓
14 申遣る八。汝何故尓可我のむ水を濁遣るぞと云。羊答云
15 我川春そ丹天濁とてい可天゛。川上能さ八りと奈らんやと申
16 遣れ八゛。狼又云。汝可父六ケ月以前尓。川上に来天。水を濁尓依
17 て。汝可゛親能と可゛を。汝尓可く類ぞといへ利。羊答云。我胎内尓
18 して父母能と可越知事奈し。御免あ連と申遣れ八゛。狼い可川て
19 云。それの三尓あら春゛。王可゛野山能草を。保しひまゝ尓損ざ須
20 事。き川く王い奈利と申遣れ八゛。羊答云。いとけ奈き身丹して
21 草を損ざ須こと奈しと云。狼申ける八。汝何故尓。悪口志けると
22 い可利遣れ八゛。羊重而申遣る八。我悪口を云尓あら春゛。其理越
23 こそのべ候へといひ遣れ八゛。於保可三能い者く。詮春゛る所。問答を止
24 て。汝をふくせんと云介る。其ごとく理非を志らぬ悪人尓八。是
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 第十 いそほ。物のたとへを引ける条々
02 つら/\人間の有様をあんずるに。色にめで香に染ける
03 ことを本として。能動をしることなし。されば此巻物を。一本の樹
04 には。必花実有。花は色香をあらはす物也。実は其誠をあらは
05 せり。されば鶏に。なぞらへて。其ことをしるべし。鶏は。塵あくた
06 にうづもれて。ゑじきをもとむる所に。いとめでたき玉を。か
07 き出せり鶏曽て是をもちひず。ふみのけて己がゑじき
08 をもとむる。其ごとくあやめもしらぬ人はたゞ。鶏にことならず。
09 玉のごとくなるよき道をばすこしももちひず。あくたなる
10 いろにそみて。一生をくらすものなりとぞ見えける
11 第十一 狼と。ひつじとの事
12 或川の辺に。狼と羊と。水をのむこと有けり。狼は上に有。
【伊曽保中 〇十六】
13 羊は川すそに有。狼羊をみて彼そばにあゆみ近付。羊に
14 申けるは。汝何故にか我のむ水を濁けるぞと云。羊答云
15 我川すそにて濁とていかで。川上のさはりとならんやと申
16 ければ。狼又云。汝か父六ケ月以前に。川上に来て。水を濁に依
17 て。汝が親のとがを。汝にかくるぞといへり。羊答云。我胎内に
18 して父母のとかを知事なし。御免あれと申ければ。狼いかつて
19 云。それのみにあらず。わが野山の草を。ほしひまゝに損ざす
20 事。きつくわいなりと申ければ。羊答云。いとけなき身にして
21 草を損ざすことなしと云。狼申けるは。汝何故に。悪口しけると
22 いかりければ。羊重而申けるは。我悪口を云にあらず。其理を
23 こそのべ候へといひければ。おほかみのいはく。詮ずる所。問答を止
24 て。汝をふくせんと云ける。其ごとく理非をしらぬ悪人には。是
|