童 蒙 教 草


巻の二

第十三章 倹約の事

     (イ)蟻と蝗螽の事 寓言

 秋過ぎ冬もはや来り、蟻の仲間は忙しく、雨露にさらせる穀物を、住居の傍に取入れて、小山の如く積貯へ、寒さの用意専一と、共に働く其折柄、夏の終に生残りし一疋の蝗螽(いなご)、飢寒に堪へ兼ね半死半生の様にて蟻の家に来り、見苦しくも腰を屈めて、「君が家に貯へたる小麦にても大麦にても、唯一粒を恵てこの難渋を救ひ給へ」と請願ひしに、一疋の蟻これを詰り問ひけるは、「我等は夏の間に辛抱して兵糧を貯へしに、君に於ては更に其用意もあらず。長き夏中の其間は何事に日を送られしや」との尋に、蝗螽も赤面し、「されば其事なり。夏の間は唯面白く月日を送り、朝には露を飲み夕には月に歌ひ、花に戯れ草に舞ひ、冬の来らんとはゆめ/\考へざりしなり」と答れば、蟻の云く「君の言葉を聞ては我等には別に云ふべきこともなし。誰にもあれ、夏の間に歌舞飲食する者は冬に至りて餓死ぬべき筈なり」と。


・類話などについて

タウンゼント 13.アリとキリギリス

 ある晴れた冬の日、アリたちは、夏の間に集めておいた、穀物を干すのに大わらわだった。そこへ腹をすかせて、死にそうになったキリギリスが通りかかり、ほんの少しでよいから食べ物を分けてくれるようにと懇願した。
 アリたちは、彼に尋ねた。  
「なぜ、夏の間に食べ物を貯えておかなかったのですか?」
 キリギリスは、答えた。
「暇がなかったんだよ。日々歌っていたからね」  
 するとアリたちは、嘲笑って言った。
「夏の間、歌って過ごしたお馬鹿さんなら、冬には、夕食抜きで踊っていなさい」
 
Perry373 Chambry336  Babrius140 Avianus34  Caxton4.17 エソポ1.23 伊曽保3.1
Charles14 La Fontaine1.1 Krylov2.12 TMI.J711.1 Type 280A  (Ba) 


尋常小学修身書 (第四期 国定修身教科書) 初版 昭和11年10月 文部省



註: この結末からはアリはキリギリスから食べ物をもらえたかどうか分からない。
父親のアリは新聞を読んでおり、母親のアリは編み物でもしているのだろうか?


イソップ物語 雪の朝 新村出 訳 
世界少年少女文学全集1 創元社 

「どうぞ、一文やってください。奥さま。」
 ある寒い朝、あわれな声でこう言って、ありのうちの戸口に立っているのを、だれかと見れば、せみです。夏にはあんなにじまんしていた、うす絹の上着も、やぶれてしまい、今は見るかげもない、みじめなすがたです。
 ありは、そのおちぶれたすがたをつくづくと見て、
「おまえさん、夏には、いったい、どんなしごとをしていたのです。」
と、聞きますと、せみは、
「夏、気候のいいうちは、まい日、音楽会や、芝居に行って、遊んでばかりいましたので、今は、ごらんのとおりのありさまです。」
と、きまりわるそうに、うつむきました。
 ありは、せみに食べものをすこしわけてやりながら、こんなことを言いました。
「そうでしょう、きっと。こんな寒いお天気にでも、やっぱり、音楽会や芝居行きが、おまえさんには、似あうでしょうよ。」
 せみは、すこしばかりのもらいものを、だいじにかかえて、とぼとぼと雪の中を帰って行きました。

注: この話は、1593年に日本で出版された「エソポのハブラス」を新村出が翻案したものである。


イソップ絵童話  ありときりぎりす 谷真介 偕成社 1969年

 あつい、なつです。おひさまが、ぎらぎら かがやいて いました。
 はたらきものの ありたちは、いっしょうけんめい たべものを はこんで いました。
ところが きりぎりすは、くさむらで いちにちじゅう、バイオリンを ひいて いました。
「おい おい、ありさん。すこしは やすんで、ぼくの バイオリンでも きいたら どうだい。」
「そんな ひまは ありません。すぐ さむい ふゆが やってきますよ。」 
 ありたちは そう いいながら、 せっせと、たべものを はこんで いました。
やがて あきが きて、あかく なった きの はが、かぜに まい はじめました。

     たらん たららん
     ろり ろり ろり


 きりぎりすは、まだ とくいに なって、バイオリンを ひいて いましたが、そのうちに ぴゅう ぴゅう さむいきたかぜが、ふき はじめました。
「おお、さむい。おなかが ぺこぺこでバイオリンも ひけないよ。」
 きりぎりすは、たべものを さがしてのはらを あるき ました。でも、もうたべものは どこにも ありません。
 ゆきが ふりだした あるひ、きりぎりすは ようやく いっけんの いえをさがして、とを たたき ました。そこは、ありの いえ でした。
「おねがいです。なにか たべるものをください。」
 しんせつな ありは、さむさに ふるえている きりぎりすを、あたたかいいえの なかに いれて、たくさん ごちそうを たべさせて あげました。
「だけど、ありさん。どこから こんなに おいしい たべものを もって きたんだい。そとは ゆき なのに。」
 すると、ありが いいました。
「これは、あつい なつの うちに、 いっしょうけんめい はたらいて、あつめた ものですよ。さむい ふゆは、こうして みんなで たのしく くらすのです。 さあ、きりぎりすさん、あなたの じょうずな うたを きかせて ください。」
 きりぎりすは、ありに いわれて、
たのしい うたを うたい だしました。

・指導者のヒント ありはなぜ食べものがたくさんあり、きりぎりすはなぜ寒くてふるえていたのでしょうか。子どもに考えさせましょう。

注:
 戦後から1980年頃にかけては、「アリがキリギリスに食べ物を与えてやる」という話が数多く出版された。しかしこれらの話は、新村出の「エソポのハブラス」の翻案の影響よりも、ディズニー映画の影響が大きいように思える。
"The Grasshopper and the Ant" THE SILLY SYMPHONIES 1934.(昭和9年) Walt Disney.
では、キリギリスは最後に助けてもらい、女王アリの前でバイオリンを弾くような話になっている。当然のことだが、このディズニーの映画は世界中で見られている。
この映画は現在DVDで発売されているが、Region Code: 1 指定なので日本のDVDでは見ることが出来ない。


参照リンク アリとキリギリスにまつわる話

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