童 蒙 教 草


巻の三

第十六章 柔和なる事

     (イ)風と日輪と旅人との事 寓言

 或時、北風と日輪とおの/\其力を誇り、何れか強しとて争論止まざりければ、されば彼の旅人に向て銘々の力を試み、よく其羽織を脱がしめ得ば、これを以て力の強き者と定めんとて、双方この議に同意したり。
 北風は頻りに吹起り、寒き風に雨を交へ、その勢衝くが如くなれども、旅人はなか/\以て羽織を脱ぐべきやうすもなく、ます/\これを固く結びて身体に纏へり。然る所に濃き雨雲の間より日輪静に見(あらはれ出、天(ソラ)一面に寒き水気を追払ひ、焼くが如き光を以て、彼の風雨に難渋した旅人の頭を照らしければ、旅人は温気に堪へ兼、先づ其重き羽織を脱ぎ、森の樹蔭に行て休息したりしとぞ。


・類話などについて

タウンゼント 232.北風と太陽

  北風と太陽が、どちらが強いか言い争った。そこで、旅人の服を早く脱がすことができた者を勝者とすることにした。
 まず北風が、あらん限りの力で風を吹きつけた。しかし、激しい突風のために、旅人はよけいマントを身体にぴったりと巻き付けた。とうとう、北風は諦めた。
 次に、太陽がやってみることにした。太陽は、俄に輝きだした。旅人はこのぽかぽかの日差しを感じると、一枚一枚服を脱いで行き、とうとう、暑さに耐えかねて、裸になった。

力で従わせるよりも言って聞かせたほうがよい。

Perry46  Chambry73  Babrius18  Avianus4  Houston60  Charles64
La Fontaine6.3 TMI.L351 Type 298  (Aesop)

注: 拙者のHPのタウンゼント版のこの話の教訓は、「権力者の争いに巻き込まれた民衆は、結局、身ぐるみはがされてしまうのである。」と、している。もちろんこれはパロディ的解釈で、寓話とは教訓のつけ方でどうにでもなる。ということを示そうと思ったのだが・・・・・・ しかし、このパロディ的解釈を、地で行く論文がある。

金大中 ノーベル平和賞は犬も笑う 文藝春秋 2000/12 金泳三 (前韓国大統領)

 ノーベル賞委員会は、金大中の「太陽政策(包容政策)」を高く評価しています。北朝鮮を暖かく包み込むことで、閉鎖的な統制社会、計画経済、軍事的対決という彼らの着込んでいる厚い外套を脱がそう、というものです。が、太陽政策は間違っています。
 イソップ物語「北風と太陽」になぞらえているのでしょうが、あれは旅人の外套を脱がせるのに北風と太陽が争うという、結果的に旅人に侮辱を与える話ではないですか。そんな例えを持ち出したこと自体、金大中の失言ですし、太陽政策は韓国経済を追いつめている。有力財閥を通じて、北にドルが流れてもいる。これはあってはいけない話です。そのドルは、北朝鮮で兵器に化けているかもしれません。


・太陽政策に反駁する寓話

タウンゼント 88.イヌに噛まれた男   

 ある男が、イヌに噛まれ、誰か治療してくれる人はないかと方々訪ね歩いた。そして、ある友人に出会った。その友人は、こんなことを言った。
「傷を癒したいならば、傷から流れる血にパンを浸して、君を噛んだイヌに与えてごらん」 
 男は、この忠告に笑って答えた。 
「どうしてそんなことをしなくちゃいけないんだい? そんなことをしたら、街中のイヌに噛んでくれと、お願いするようなものではないか!」 

自分を害する者に、情けをかけてはならぬ。相手につけいる隙を与えてはならぬからだ。

Pe64 Cha177 Ph2.3 TMI.J2108 (Aesop)

カンタベリー物語2p415  チョーサー作 桝井迪夫 訳  岩波文庫
「もしあなたが昔の非道に対して復讐を全くしないのなら、それは敵を呼び集めて、あなたに対して新しく非道を行えと言うようなものだ」と。


・強行政策を奨励する (隠喩的寓話)

タウンゼント 149.マーキュリーの神像と大工

 とても貧しい大工が、マーキュリーの神像を持っていた。男は毎日、神像にお供え物をして、自分を金持ちにしてくれるようにと祈った。しかし、彼の熱心な祈りにも関わらず、彼はどんどん貧しくなって行った。
 ある日のこと、大工はとうとう神像に腹を立て、神像を台座から引きずり下ろすと、壁に叩きつけた。神像の頭が割れ、さらさらと砂金が流れ出た。
 大工はそれを拾い集めながらこう言った。
「全く、あなたは、理不尽でひねくれ者です。私がお祈りしていた時には、御利益を授けて下さらなかったくせに、こうして、ひどいことをしたら、富をお与えになった」

悪は拝むよりも殴った方がよい。

Pe285 Cha61 Ba119 Cax6.6 伊曽保3.15 Hou41 Laf4.8 TMI.J1853.1.1 Type1643  (Ba)


・強硬政策を奨励する (直喩的寓話) 

Ernest Griset p367 少年とイラクサ

 ある少年が、野原で遊んでいて、イラクサに刺された。少年は、泣きながら父親の許へと行くと、こう言った。
「僕は何度もあの嫌な草に刺されたことがあるから、気をつけていたんだ。だから今回は、そうっと触っただけなんだ。それなのに、とてもひどく刺されたんだよ」
「息子よ」父親が言った。「お前が傷を受けたのは、とてもやさしく、そして、とてもおびえて触ったからなんだよ。イラクサだって、安全につかむことができるんだよ。もしお前が勇気を持って毅然した態度で、イラクサをしっかりとすばやくつかめば、決してお前を刺したりしないんだよ。そして、お前が世の中に出たら、このイラクサと同じように取り扱わなければならないような、人間や事件にたくさん出会うことになるのだよ」

Charles84 タウンゼント61

タウンゼント 21.農夫とヘビ

 ある冬の日のこと、農夫は、寒さに凍えて今にも死にそうになったヘビを見つけた。彼は可哀想に思い、ヘビを拾い上げると自分の懐に入れてやった。
 ヘビは暖まると、元気を取り戻し、本性を顕わにして命の恩人に噛みついた。農夫は今際の際にこう叫んだ。
「おお、これも、悪党に哀れみを与えた、当然の報いだ!」

悪党には親切にしないのが、一番の親切。 

Pe176 Cha82 Ph4.20 Ba143 Cax1.10 Hou17 Charles43 Laf6.13 TMI.W154.2 (Aesop)

ペリー271 冬と春 イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫

 冬が春をからかって、こんな悪口を言った。春が来たとたん、もう誰もじっとしていない。百合などの花を摘んだり、薔薇を額の飾りにしたり挿頭(かざし)にするのが好きな人は、野原や森へと繰り出すし、また別の人は、船に乗り海を渡って、どこでもよい、よそ人の所へ行こうとする。それに誰も、風のこと、豪雨のもたらす大水のことなど気にもかけなくなる。それに対して、と冬は言葉を続けて、
「私は有無を言わせぬ王のようだ。空を仰ぐことなく、地面に目を伏せ、恐れ震えていさせてやる。時には、終日家に蟄居するも止むなし、と思わせてやる」と言えば、春の言うには、
「だからこそ、人間は君が去れば喜ぶのだ。私はといえば、その名だけでも美しいと人々に思われている。まったくのところ、世界一美しい名だ。それ故、私が去っても人々は覚えているし、戻って来ると歓喜するのだ」

Chambry346

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