ESOPO NO FAVLAS.

0.09 (海の水を飲み干すこと) 417.17--419.01

ある時シャント沈酔していらるるところへ、人が来て「大海(だいかい)(う しお)を一口に飲み尽くさるる道があろうか」と問うに、シャント「たやすう飲もうずる」と了 承(りょうじょう)をせられた時、その人の言うは、「もし飲み尽くさせ られずは何と」と、シャントは「必ず明日(みょうにち)飲 まうず、もしまた飲み損ずるにおいては、一家(いっけ)の 財宝を悉く(まいない)に進じょうず」と言え ば、相手もその分約束して、互いに指金を取り換わいた。その人が帰り去って酒さめて後、エソポを招き寄せ、「身が指金はどこにあるぞ」と 問わるれば、エソポが言うは、「こんにち迄はこの家のお主なれども、明日(みょうにち)は 何とならせらりょうか」と言うて、先の争いを語ったれば、シャントは大きに驚いて、「さて何としょうず? ひとえに汝にまかするぞ、この事を何とぞ計略してみよ」と言われたれば、エソポが言うは、「我 この難儀を遁れさせらりょうずることを教えまらしょうず、しからば我が身を自由になさせられい」と、シャント「その段はいと易いことぢゃ」と約束して、(は かりこと)をエソポに教えられ、翌日海辺(かいへ ん)に出て、大海を飲まうと争うほどに、見物の貴賤海のほとりに市をないた。その時シャント器ものに潮を汲ん で、高座に上って言うは、「我 昨日(きのう)の 約束の如く、海の水を悉く飲み尽くそうず、しかれどもまづ諸々(もろもろ)の 川の流れを堰き止められい、その後海を悉く飲まうずる」と言うたれば、その時 争うた人は問訊(も んじん)してシャントの足元にひれ伏し、「是非に及ばぬ聊爾(りょ うじ)を申した、右の賭けものをばご赦免あれ」と頼むによって、そのところに馳せ集まった万民もともに「赦さ れい」と乞い受くるによってすなわち赦免せられた。


ESOPO  p417  p419

・類話などについて

Ernest Griset  p165 海と河川
 クサントスは仲間の哲学者たちと楽しく酒を呑んで、酔っぱらってしまった。すると、その中の一人が、クサントスをからかってやろうと、 こんなことを言っ た。
「クサントスよ。私は人間は海の水を飲み干すことが出来る。という説を何処かで読んだのですが、そんなことが出来るなど信じられますか?」
「もちろんだとも、簡単なことだ」クサントスが言った。「では、家と土地、そして全財産を君と賭けて、海の水を飲み干してみせようじゃないか」
 この賭けが成立すると、その証拠にと、彼らの指輪が交換された。翌日クサントスは、指に自分の指輪でなく、知らない指輪がはめられているのに気づき、こ のわけをイソップに尋ねた。
「昨日あなたは、全財産を賭けたのです。」イソップが言った。「海の水を飲み干すとおっしゃって……。その賭けの約束に指輪を交換したのです」
 クサントスは、この事態に打ちのめされた。そして、イソップに、自分はどうすればよいか教えてくれと、頼み込んだ。
「その賭けを成し遂げるなど不可能なことは、あなたもご存じのはずです」イソップが言った。「しかし、この賭けを回避する方法を教えて差し上げましょう」
 それから二人は、その学徒に会いに行った。そして、彼と大勢の人々と共に浜辺へと向かった。浜辺には、イソップが予め、テーブルに大きなコップを並べて おいた。そして、ひしゃくを持った者たちがコップを水で満たそうとその回りに立ち並んでいた。
 イソップに言い含められていたクサントスは、真面目な面もちで、テーブルに着いた。見物人たちは、これを見て大変驚いた。そして、クサントスは、正気を 失ったに違いないと考えた。
「私の賭けの契約についてだが」クサントスは、学徒に向き直って言った。「海を飲み干すというものだったな。しかし、私は、あらゆる所から流れ込んでくる 河川の水を飲むとは言わなかったぞ。河川の水を止めてくれ。そうしたら、約束を果たすことにしよう」

TMI. H696.1.1 海の水はどれくらいか? 全ての水を止めたら計ってみせる。

グリム童話 KHM152 『羊飼いの少年』
王様が言いました。「大海には、どれほどの水の粒があるか?」
「王様、私が海の水を数え終わるまで、一適の水も海に入り込まないように、地上の川を全て堰き止めてください。そうすれば、海には、どれほどの水の粒があ るのか、お答え致しましょう。」と少年が答えました。
 
ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら 阿部謹也訳 岩波文庫
第28話.オイレンシュピーゲルがボヘミアのプラハ大学で学生と議論し、やりこめたこと。
 学長が出した第一の問いは、海に何オームの水があるか述べ、答えが真であることを証明せよ、というものでした。彼がこの問いに答えられないときには彼を 無学にして学芸をけがす者として宣告し、罰するというのです。彼はその問いに即座に答えました。「学長閣下。およそすべての河口から海に注いでいる別の水 を止めて下さい。そうすれば私は海水の量を計って証明し正確なお答えをいたしましょう。これは容易なことです」。学長は川の水を止めることはできませんで したので、この質問をとりさげ、海水を計らなくてもよいことになりました。

タウンゼント 111.川と海
 川たちは、皆で一緒になって、海に対して不平を言った。
「あなたの潮へと流れ込むまでは、我々は、甘くて飲み水に適しているのに、どうしてあなたは、我々を塩辛く変えてしまうのですか?」
 海は、川たちが、自分を卑しめようとしていることに気づき、こう答えた。
「私の所へ流れ込まないように祈りなさい。そうすれば、塩辛くならずにすむ」
Pe412 H380 TMI.W128.3 (Syntipas)

サキャ格言集142 今枝由郎訳 岩波文庫
立派な人が劣った者と交われば/劣った者に染まる。/いかに美味しいガンジス川の水も/海に至れば塩水となる。

サキャ格言集311
力が弱い者でも/強い人に師事すれば事をなしとげる。/水のしずくは弱いけれど/湖に混じれば乾かない。

ホジャ 海に水を教える 護雅夫訳 東洋文庫38 平凡社
ホジャが或る日、海っ岸を歩き廻ってて、酷う咽喉が渇いたげな。周囲を見廻すも、水はなし。しょうことなしに、海の水を手で掬うてちょ いと飲んだげな。じゃが、渇きがおさまるどころの騒ぎじゃあない。腹の中がでんぐりがえったげな。
 彼方此方深し探しして、やっとのことで泉を見つけ、たっぶり渇きを癒したけな。それから、その水を、下帽子(タツケ)にいっぱい汲んで海っ岸へ持ってっ て、海に注ぎこんだげな。そこで言うことにゃ、
 「泡ふいて荒れ狂い、えらそうに振舞うても、何の役にも立たんぞい! ほら、水てぇものは、こういうもんじゃいっ!」

         INDEX BACK NEXT

         著作権はhanamaが有します。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送